Tom's Hobby Special Report

キャンバー変化とサスジオメトリーに関するレポート

ひろ

はじめに

 ツーリングカーの車体に横Gが加わるとキャンバーが変化するので、サスセッティングでこれを補正して良好なグリップを得るのだ、という話はよく聞くのですが...。

 キャンバーがどのように変化するのか、それから、サスのどの部分をどういう方向でセッティングすればよいのか詳細な説明を探したのですがいまいちな物ばかりで、結局、自分で考えてみることにしました。以下は特に参考文献があった訳ではないので、ひょっとすると間違いがあるかも知れません。(^^;オイオイ

1.動的なキャンバー変化の要因

 簡単化の為に、リヤサスを考えることにします。下図はツーリングカーをリヤから見た図と思ってください。

 ツーリングカーのサスはコーナリングすることによってかかる横G(コーナリングフォース)によりサスペンションが動き、下図のような姿勢となります。

 このとき、なんだかシヤーシーが捻れたような位置変化をするために、複雑に見えますが、下図のような動きが複合して、結果的にキャンバーが変化すると考えることができます。

 そこで、以下の図に示すように動きを分けて考えると、理解しやすくなります。

 

 このとき、ロール軸はロールセンターの事ではなくて下図のようにロアアームのシャーシー側サスピンを指すことに注意してください。(こうする事で沈み込みと切り分けて考える事ができます)

 これらの図から、キャンバーは沈み込むことによって変化するものとロールする事によって変化するものの2種類が有ることが推測できると思います。

 例えば、上の図のようなジオメトリーでは沈み込みよるキャンバー変化はありませんが、ロールすることによってポジ側に変化する事が解ります。

 一方、例えばアッパーアームのシャーシー側付け根がロアアームのシャーシー側付け根と同一点である場合、つまりサスが後ろから見て直角3角形の場合を想像してみてください。そうすると、ロールによる変化はなくなり、沈み込みによりキャンバーがネガ側に変化する事が解りますか?

 また、これらの例からも解るように通常キャンバーは沈み込みによってネガ側に変化し、ロールによってポジ側に変化します。その為、これらが複合しているコーナリング状態ではネガ変化とポジ変化が相殺しあい、バランス状態になっています。

 このように、キャンバーを変化させる要因として、ロールと沈み込みがあるのですが、この2つのバランスを決める要因の代表として、コーナー内側サスのリバウンドがあると思います。

 結果から言えば、内側サスのリバウンドが少ないとロールの割合は減り、沈み込みの割合が多くなります。これは、最初の図からも解るようにリバウンドが少ないと、内側サスが下側に動く事ができなくなりますから、ロール量が規制されるためです。

 

2.ジオメトリーとキャンバーの関係について

 さて、先に示したようにキャンバー変化はロールと沈み込みで発生しますが、サスジオメトリー(四角形形状)によって、ロール/沈み込みに対する感度が変化する事が解っています。

 そこで、ある仮定したロールと沈み込み量に対して、種々のジオメトリー(サスアーム位置、長さ、角度)でキャンバーがどのくらい変化するのかを計算し、比較することにしました。

 計算はエクセルで行ってます。

 仮定は下図に示すような四角形で、リヤサスの4辺を表していると考えてください。

Aがロアーアーム、Cがアッパーアームで、Bはアッパーとロアーのシャーシ側の距離を表しています。ここで、Dがリヤハブに相当しますが、実際にはこの外側にあるタイヤが地面と接触して固定されるのですが、簡略化の為にDの下端が固定されるというふうにしています。

 ここに、初期値として種々のアーム位置、長さ、角度から座標値を求めて入力します。

次に、下図に示すように、変位を与えてキャンバーの変化量を求めてみました。

ちなみに、変位量は

  沈み込み量:5mm

  ロール量 :5゜

としています。

 

 

 

 

 

2.1 <アッパーアーム角度の影響>

 アッパーアームの角度を変化させています。左端図がリファレンスとも言える上下アームが平行でスクエアな状態です。この状態に対して、中央の図ではアッパーアームのシャーシーを低くし、B:D=1:2としています。

右図ではハブ側を高くし、中央図同様にB:D=1:2としています。

(結果)

 各図下にキャンバー変化量を示します。左図の結果は1.で述べたようにロールでのみキャンバーが変化しているのに対して、中及び右ではロールと沈み込みの両方で変化している事が解ります。また、その変化から以下の事が解ります。

(1-1)アッパーアーム角度が立ってゆくとロールに対して鈍感になり、沈み込みに対して敏感になる。

 また、中央図と右図を比較するとアームの角度は異なるにもかかわらず、ロール/沈み込みに対する感度がほぼ同じで有ることが解ります。アッパー/ロアーのシャーシ側距離とハブ側距離の比が同一であることによります。つまり、

(1-2)ロール/沈み込みそれぞれに対する感度を決めるのはアッパーアーム角度ではなく、アッパー/ロアーのシャーシ側距離とハブ側距離の比である。

 さらに、このことからロアアームに対するアッパーアームの角度を一定に保った場合、アーム間の距離が少なければ少ないほどアッパー/ロアーのシャーシ側距離とハブ側距離の比が大きくなるので、次の事が言えます。

(1-3)アッパーアーム角度が一定の場合、アーム間の距離が少ないほどキャンバー変化はロールに対して鈍感になり、沈み込みに対して敏感になる。

 ここで、各図におけるロール/沈み込みによるそれぞれのキャンバー変化の絶対値を足すと5〜5.5程度なることが解ります。その他のアッパーアーム角も調べてみましたが、同様でした。これは沈み込みの初期条件で5mm変位させた時のサス形状が、ロール5゜の時とほぼ同じ為で、もちろん沈み込みが少なくなればそれによるキャンバー変化は少なくなりますが、考察しやすいようにこの沈み量を前提として考えます。

 すると、以下の事が言えます。

(1-4)アッパーアームの角度を変化させてもロール/沈み込み量それぞれに対するキャンバー変化は同時に増加もしくは減少することはなく、バランスを決めている。

2.2 <アッパーアームの長さの影響>

 次に、アッパーアームの長さの影響を調べてみます。

このとき、アッパーアームの状態は2.1の中央図を基本としています。この状態から、実際のセッティング時に行う作業を考えて以下の3種類のジオメトリーについて調べてみました。

 左図はアッパーアームのシャーシー側取り付け位置を外側に10mm水平移動しています。

 中図はアッパーアームのハブ側取り付け位置を内側に10mm水平移動しています。

 右図はシャーシー側/ハブ側共、10mmずつ移動しています。

(結果)

 それぞれの結果を1.1の中央図の結果を含めて比較してみると、次の事が解ります。

(2-1)アッパーアームが短くなってゆくとキャンバー変化はロールに対して鈍感になり、沈み込みに対して敏感になる。

 また、左図と中央図を比較すると、アッパーアームの角度/長さは変わらず、さらにシャーシ/ハブでのアーム距離の比ついては中央図の方が大きいにも関わらず、ハブ側のアッパー取り付け位置を移動した左図の方がよりロールに対して鈍感になり、沈み込みに対して敏感になっています。つまり、

(2-2)アッパーアームを短くする場合、シャーシ側取り付け位置を移動する方がハブ側を移動するよりもキャンバー変化はロールに対して鈍感、沈み込みに対して敏感になる。

 さらに、ここでも各図におけるロール/沈み込みによるそれぞれのキャンバー変化の絶対値を足すと5〜5.5程度になることが解ります。つまり、

(2-3)アッパーアームを短くしてもロール/沈み込み量それぞれに対するキャンバー変化は同時に増加もしくは減少することはなく、バランスを決めている。

 

2.3 <ロアアーム角度の影響>

 次にロアアーム角度の影響について見てみます。

 左図は2.1中央の状態を基本としてロアアームのハブ側付け根だけを5mm上げた状態です。

 右はさらに、アッパー/ロアーのシャーシ側距離とハブ側距離の比が2(2.1中央と同じ)になるようにした場合です。

 

(結果)

 それぞれのキャンバー変化を見てみると、ロアアームのハブ側付け根だけを上げた場合にはロールに対して敏感になり、沈み込みに対して鈍感になることが解ります。さらに、右図の結果から、アッパー/ロアーのシャーシ側距離とハブ側距離の比が同じ場合にはロアアームの角度によらず、ロール/沈み込みに対するキャンバー変化の感度は同じになることが解ります。

 これより次の事が解ります。

(3-1)ロアアーム角度が立ってゆくとロールに対して敏感になり、沈み込みに対して鈍感になる。

(3-2)ロール/沈み込みそれぞれに対する感度を決めるのはロアアーム角度ではなく、アッパー/ロアーのシャーシ側距離とハブ側距離の比である。

 

 

2.4 <ロアアーム長の影響>

 次にロアアームの長さの影響について見てみます。

 

(結果)

 各図はロアアームの長さを変更すると共に、アッパーアームを延ばしています。これではロアアームだけの影響じゃないと言われるとつらいのですが、ロアだけ長くするとその形状としては2.2の検討と同じになりますので、ここでは割愛します。

 各図を比較すると解るように、この場合に特徴的なのはロアを長くするとロールに対しては全く変化せず、沈み込みに対して感度が低下することです。これは、ロアアームが長い為に同じ沈み込み量(ここでは5mm)でもシャーシに対してロアアーム角度が少なくてすむということから来ていると考えられます。(下図参照)

 つまり、次の事が言えます。

(4-1)ロアアームを長くすると、キャンバーの変化の感度をロールに対しては変化させず、沈み込みに対して減少させることができる。

 さらに言えば、

(4-2)ロアアームの長さを変化させると、ロール/沈み込み量それぞれに対するキャンバー変化を同時に増減させることができる。

 と言えます。

 

3.アームジオメトリーのセッティング方法について

 さて、これまでの結果から実際のセッティングで動的なキャンバー変化をどうやって調整するのかということですが...。

 まず、沈み込みによりキャンバーはネガ側に、ロールによりポジ側に変化する事、さらに、実際のコーナリングではロール/沈み込みがあるバランスをもって複合している事を思い出してください。

 そこで、例えば動的キャンバー変化をネガ側にしたいのならば、2.で示した沈み込みにより敏感なセッティングにし、ポジ側にしたいのならばその逆のセッティングにすればよいことになります。

 でも結局のところ、個別のシャーシーがコーナリング中にどのようなロール/沈み込みのバランスをもっているのかで絶対的なキャンバー変化の値が変わってきます。その為、ある基準となるアームジオメトリーでのキャンバー変化状態の把握が必要です。

 その方法については私も検討中ですが、2つほど方法が上がっていますので書いておきます。(とみながさんありがとー!)

1)片側サスを外して車体を傾け、この状態でキャンバーを測定する。

  (リバウンドがない場合にはほぼ実際に近いと考えられる)

2)タイヤにマーキングして走行し、その消え具合から推測する。

 

<補足>ロングサスの効果についてのちょっとした考察

 さてここまできて、面白いことに気づきました。

一般的にサスの堅さとはなんでしょうか?私が思うに、それはタイヤを一定量上下させるのに必要な力の度合いではないでしょうか。

 ここで、一定量の上下移動というのはどちらかといえばこれまで話してきた沈み込み量に対する堅さに近いと考えられます。

 すると、ショートサスとロングサスで同程度のサスの堅さを設定した場合には、2.4の検討から、ロングサスの方が沈み込みに対するサスの形状変化が小さくなる事が解ります。つまり、ロングサスでは各アームの角度変化が小さく抑えられると言うことです。ここで、ロールとはアームの角度変化そのものの事ですから、結果として、ロールが抑えられると言うことになります。

 よって、

<ロングサスにすることによりスタビライザー効果が得られる>

といえるのではないでしょうか。

 

 

注)ロングサスのスタビライザー効果について

ショートサスと同じ硬さにするには、一般的にバネをより硬くする必要があります。